実は耳かきは意外と危険を伴う行為です。
東京都消防庁が平成18年から5年間で、耳かき行為に伴う事故で救急搬送されたのが管内で387人と発表しています。
毎月6人以上が搬送された計算ですね。
「耳かき」という道具は、日本をはじめとするアジア圏(朝鮮半島、中国北部など)にしかありません。
これは乾性耳垢の人が多い地域であるためですが、日本人は特に耳かきが好きな人種なので、それ故にトラブルなども報告されています。
耳かきしすぎて痛いときに起こりえる意外なトラブルや耳の炎症、耳かきのコツなどについて記しています。
耳かきのしすぎで痛み・かゆみをおこす原因
耳の中はもともと湿疹ができやすい部位です。
中でも耳かきのしすぎ等でなる外耳道湿疹は厄介です。
耳かきしすぎる人は「ミミカキスト」などと呼ばれるそうですが、そういった人はたいてい外耳道がキレイになりすぎていて、耳垢による抗菌作用(抗菌については諸説ありますが)や異物混入をバリアするシステムが作用していない状態になっています。
そこに薄い皮膚の外耳道を、耳かきや綿棒などで物理的な刺激を与えることで炎症を起こします。
軽い炎症だとかゆみ、ひどい炎症だと痛みがでてきます。
まだ「かゆい」という段階で皮膚を掻くと、かゆみの元の物質を出す炎症細胞が集まってさらに掻いてしまい、「痛い」という現象につながります。
この過程で少し「汁」が出る状態になって、耳鼻咽喉科へ行く方もいらっしゃいます。
基本的に耳かきなどの外部刺激を禁じて、ちゃんと耳鼻咽喉科に行けば治るものですが、恐ろしい耳かき外傷というものが存在するので次の章でお話します。
耳かきで起こりえる外傷とは
耳かきにはどんな外傷が起こりえるんでしょうか。
鼓膜が破れる(外傷性鼓膜穿孔《がいしょうせいこまくせんこう》)
耳かきによって鼓膜が破れるというのはよく聞いたことがあるかもしれません。
外傷性鼓膜穿孔の多くの原因は耳かきなどの耳垢除去行為に伴って起きています。
耳かき中にペットや子供がぶつかって、外部から思わぬ力が加わったり、子供自身が大人の真似をして耳かきを行ったりするためです。
冒頭の救急搬送の話も多くがこの原因になっています。
鼓膜が破れたら処置だけで自然再生・治癒することがあるが、穴がふさがる前に炎症を起こしていたり破れた穴が大きい場合は、手術でふさぐという選択しかなくなることがあります。
ちなみにアメリカでは耳掃除による外傷性鼓膜穿孔は数%にとどまっています。
耳かき文化が浸透していないのがよくわかりますね。(綿棒はあったみたいですが)
耳小骨などの骨折・離断・損傷
鼓膜をつきぬけて、中耳にある耳小骨の骨折・離断が起こりえます。
内耳まで損傷したり、アブミ骨(音を聞くのに最も重要な耳小骨)を乗せているアブミ骨底板の損傷もあります。
耳小骨損傷を治すには手術しかなく、難聴の後遺症を残す可能性があります。
内耳の損傷はもっと深刻で、手術を要するのはもちろん、めまいを起こし高度の難聴の後遺症が残る可能性があります。
耳かきしすぎないと「耳垢栓塞」になる?耳垢が溜まりやすい人とは
ここまで耳かきをしすぎて起こりえる弊害をみてきましたが、逆に耳かきをしすぎないことで耳垢が溜まって不具合が生じるのでしょうか?
耳垢が溜まりすぎた状態の病名を「耳垢栓塞(じこうせんそく)」と言います。
耳垢が栓状に外耳道に溜まった状態です。
耳垢が厚くなりすぎたり、少量であっても鼓膜に耳垢がくっついて難聴や耳鳴り・違和感が生じるので除去する必要があります。
ただ耳垢は不潔という印象がありますが、意外に大事な役割を果たしています。
耳垢は異物をからめ取って、同時に保湿をしてくれます。
つまり外耳道と鼓膜を守る役割として分泌されているということです。
また外耳道には自浄作用として、耳垢がたまりすぎないように清掃してくれるシステムがあります。
特殊で驚きですが、なんと耳の中の内側から外側に向かって表皮が少しずつ移動して清掃するという作用です。
これをマイグレーションと呼びますが、これが正常に作用していれば基本的には耳垢が溜まりすぎないということになりますね。
一般的には1年間耳掃除をしていなくて、ようやく「耳垢栓塞」になるかもしれないというくらいです。(個人の耳垢の分泌量によっては3ヶ月以内の方もいます)
逆に耳かきや綿棒によって耳垢を鼓膜まで押し込んでしまう
ことがあるので要注意です。
耳垢が溜まりやすい(耳垢栓塞になりやすい)傾向としてはこのような方が多いです。
- 外耳道が狭い方(小児など)
- 高齢の方
- 知的障がいのある方
- 湿性耳垢の方
あくまで傾向なのでご自身が耳垢栓塞になりやすいかはお医者さんに診てもらって聞いたほうがよいでしょう。
ちなみに耳垢栓塞を耳鼻咽喉科で治療する場合は、耳に点耳薬などを使用することが多いと思われます。
耳垢が原因ではなく、耳年齢の老化によって聞こえづらくなっている方はこちらの記事もご参照ください。
モスキート音テストで耳年齢チェック!耳年齢の回復方法はある?医者が薦める耳老化防止方法とは
耳かきをしすぎない適度な頻度・コツ
さきほども記したように外耳道の自浄作用がありますので、鼓膜付近の耳垢ですら3ヶ月程度で出てきます。
そのため2.3分程度の耳掃除を月に一度でも行えば充分といわれています。
耳の穴から耳垢が見えてしまうか気になる方でも、2週間に一度くらいで充分でしょう。
もし耳かきを行う場合は次のようなコツをおさえて行いましょう。
- 事前に子供やペットなど外部の力が加わらない事を確認
- 寝ながらではなく、座った状態で行う
- 耳の穴の入口から1cm程度までを掃除する
1は外傷を負わないための事前確認ですね。
2は寝ながらだと耳垢が奥の鼓膜まで行きやすくなってしまうためです。
3はマイグレーションによって入り口付近に来ている耳垢を掃除するという意味があります。
あとは使い捨てでない耳かきの場合は清潔に保っておくことも大事ですね。
様々な耳掃除のやり方。一番安全なのは?
家庭での一般的な耳掃除のやり方としては
- 耳かき
- 綿棒
- クリーニング液体
というものが挙げられます。
日本人が一番なじみがないのは三つ目のクリーニング液体の洗浄ですよね。
それもそのはず、湿性耳垢の人が多い地域で一般的に販売されているもので、日本ではほとんど出回っていないものです。
はたして乾性耳垢の多い日本人にも正しい方法なのか定かではありません。
一番安全なのはたまに指で掻きだしたり、お風呂上りに耳の中を拭く程度にとどめて、気になったら年に2.3回くらい、保険診療で耳鼻咽喉科の耳垢除去を行ってもらうというのがよいという意見もあります。
筆者もこれに賛成です。
何でもしすぎる事はよくありませんが、耳かきに関してはしすぎないくらいが耳の健康を保てるのかもしれません。
極論のような気もしますが、耳かきの時間を他にあてることもできますし、これぐらいがちょうどよい方法のように思います。